研究室のテーマと研究へのむかい方

―死生心理学研究室(川島ゼミ)配属・進学希望者に向けてのメッセージ―


ないこと、うしなうことから逆照射される、人が生きるかたち。


 ゼミでは、生涯発達心理学の観点から死生の問題について研究を行っています。

 発達心理学というと、乳幼児の発達を中心に青年期までをイメージする方も多いでしょう。しかし、人は青年期以降も、働き、家庭を築き、子育てに奮闘し、社会の中で何らかの役割を果たしていきます。同時に親の介護や老いの問題に直面したり、人生の終盤では身近な人との死別や自らの死とも向き合わざるを得ません。さらに言えば、こうした「典型的な」人生観も実際には極めて限定的なものです。たとえば障害を持って生きる人、結婚しない人、異文化で生活する人、病いのため長期間の療養生活を余儀なくされる人、働き盛りに職を失う人、そして予想もしていなかったかたちで突然身近な人を失う人がいるからです。つまり私たちが「当たり前」と思っている、人が生きるかたちは、本当はもっと複雑でもっと多様性に溢れているものであるはずです。また従来の発達心理学で焦点を当ててきた、何かを得たり、できるようになることは、実際には何かを失ったり、できなくなることと表裏一体です。そしてその「あいだ」を揺れ動きながら生きているのが、人であるとも言えないでしょうか。

 こうした考えのもと、川島ゼミではとくに「ないこと、うしなったことから逆照射される、人が生きるかたち」に迫ろうとしています。

センス・オブ・ワンダー(Sense of Wonder)


 研究をはじめる際には、あなたが不思議だ、面白いといった気づきを大切にすることが必要です。

 私たちはかつて子どもだった頃、好奇心の塊だったのではないでしょうか。道で拾った珍しい小石をポケットに集め、はじめて見る虫や魚に目を輝かせていたのではないしょうか。それがいつからか「当たり前」という常識の枠に囚われ、鈍感になってきてしまったのではないでしょうか。もちろん、人が生きる上でそれは宿命的な問題でしょう。しかし「センス・オブ・ワンダー(Sense of Wonder)」、すなわち不思議や神秘さに眼をみはる感性は、私たちが生きる上で欠くことのできないものでもあります。そしてそうした感性は、研究の問いを立てる上でも関わってきます。

 実際、ある考え方や意見、習慣に対して違和感を持つこと、あるいは日常の当たり前に対する気づきや、ふと抱く疑問を探求してみることが学問のはじまりといえます。

こころの安寧(well being)への臨床発達研究


 研究は個々の問いから出発することが大切と考えます。同時に、それが単なる個人的な満足ではなく、広く人々のこころの安寧に貢献できるように努めなければなりません。

 そのためには自分の研究は、誰に向けて行っているのか、つまり研究の「宛先」を絶えず考え続けることが大切です。喪失などのテーマに取り組むのであればとくに、自分の研究が、協力してくれた人々や社会対してどのように貢献できるのかを考えなければなりません。それは卒業研究といえども、同じです。



 「自分がなにをしたいのか。あるいは何をしなければならないのか。それはなぜか。」それを問うことから、研究は始まります。



さて、あなたの研究テーマは何でしょうか。